「虫の知らせ」

遠く離れた場所にいる人からの「知らせ」があったり、その人の姿が見えたような気がするという現象は、まれではあるが多くの人が体験している。その中では、親族の死や危機というテーマがとくに多く出てくる。(以下は、明治大学の西暦2004年度の学生のレポートからの引用である。本人ではなく、レポート作成者が聞き取ったものである。)

幼少のころ。祖父が危篤になり、両親が病院につきっきりで、兄弟と家で留守番をしていたところ、夜に祖父母の寝室で物音がした。物音の原因をつきとめようと祖父母の寝室に行ってみると、壁にかけてある祖父の写真が落ちていた。そしてしばらくしてから電話が鳴り、母親から祖父がたった今息を引き取ったことを知らされた。
これはいわゆる虫の知らせではないかと考えている。祖父が自分の死を、自分の写真を落とすという方法で知らせたかったのではないだろうか。
家族も含め、ほかに超自然的な体験をしたことはとくにない。
(21歳 男性)

19歳のとき母方の祖父が亡くなった。その時に不思議な体験をした。
夕方に、母とリビングでいつものように何気ない会話をしていると、ふと祖父のことが脳裏に浮かんだ。どうして急に祖父のことが気になったのかはわからないが、とにかく気になった。そこで母に祖父の話をしようとした。すると母が先に祖父の話をしはじめたのでびっくりした。
その30分ほど後、電話がかかってきた。祖父の死を伝える電話だった。電話が鳴った瞬間、私は祖父の死だと確信できた。30分前の不思議な出来事は祖父の死を何かが教えてくれたのだと感じた。
(20歳 女性)

祖父は、私が高校1年生の春に亡くなった。通夜の日の夜に、家の廊下を歩いていると誰かが私を呼ぶ声がした。始めは祖母が呼んでいるのかと思ったが、注意深く聞いてみるとそれは祖父の声だった。祖父は私のことをずっと呼んでいた。恐怖と悲しみで、自分もパニックになり、慌てて布団に潜り込んだら、それ以来、声は聞こえなくなった。
後で、逃げたことに対して、祖父には悪いことをしたなあとも思った。その後、身の回りでは不幸なことは起きていない。霊感はとりたてて強い方ではない。以前は霊の存在というものを信じていなかったが、あれ以来信じるようになった。
(19歳 女性)

同居していた祖母が1年前に亡くなったのだが、その時の体験が今思い出してみても変わったものであると記憶している。祖母は自宅で介護を受けていたのだが、そうはいっても頭もはっきりしていたし、食が細くなるようなこともなかったから、家族の誰もがその日にこの世を去るとは考えてもみなかったそうだ。しかし私はその日、何故なのかはわからないが、祖母が死んだことを強く感じた。もちろん朝、家を出る時にはそんなことは考えもしなかったし、学校にいる間もそんなことは夢にも思わなかった。この日は塾があって学校帰りに寄ったのだが、その授業中に私は、今思い出してみても奇妙なことなのだが、祖母が死んだことを悟った。(感じた、という方が、あるいは適当かもしれない。)それはなんの脈絡もなく私の脳裏に降って湧いた。休み時間にメールが携帯にはいっていたので恐る恐るそれを見ると、果たしてそれは母からの、祖母の死を知らせるメールだった。私はその時の驚き、そして悲しさを今でもありありと思い出せる。

当日の状況を考えると、いつもと違うことがあった。私は毎朝祖母にあいさつをしてから家を出ていたのだが、その日は寝坊をしてしまい、あいさつせずにでかけた。それまでそうしたことは一度もなかったので、些細なことだが、はっきりと覚えている。あるいはこの、あいさつをしていかなかったことが実際はずっと気にかかっていたために、途方もない推測に至ったのかもしれない。

私の場合、確かに勘が鋭いところがあるとは思っていたが、死についての直感が当たったのはこれが初めてのことだった。そうはいっても、単なる偶然の一致という見方も可能だ。ただ、偶然として処理するにはあの時の確信めいた感じを説明するに足りないような気もしている。
(19歳 女性)

高校3年生の時だった。私の祖父は、もう何年も入院しており、私もなかなかお見舞いに行けない環境だった。普段は気にしてはいなかったが、ある時、ふと、「どうしてるかな?」と考えていたら、私の隣を一人のおじいさんが通り過ぎた。すれ違った時、そのおじいさんが私の祖父にとても似ているような気がした。

その時は何も思わなかったのだが、その3日後、祖父は死去してしまった。

今考えると、会いに来たのかなぁと思う。霊感のまったくない私だが、こんなに不思議な体験をしたのは初めてだった。
(20歳 女性)

祖父が亡くなる直前に不思議な体験をした。

中学生のとき、深夜に家の二階で歯を磨いていたら、男のうめき声が聞こえた。その声はかなり大きくて、はじめは一階で寝ている祖父の声かと思った。しかし、家族が誰も起きてこないので、気のせいだと思って寝てしまった。今から考えると、祖父が私に何かを伝えようとしていたのかもしれない。

(21歳 女性)

「知らせ」が夢の中で感じられることもある。

祖母が亡くなった夜に不思議な夢を見た。深夜0時頃に寝付いてから、3時間ほど経ってのことだと思うが、祖母が夢に出てきた。なぜか家の縁側にコタツが置いてあって、祖母と私が温まっていた。そして私が「おばあちゃん、家の中へ入ろうよ」と言うと、祖母は「私はもうそっちにはいけないの。だからここで見てるの」と言った。現実のように感じられた夢を見るのはそれが初めてのことだった。その後も何回か夢に祖母が出てきていたが、お盆が過ぎたら、出てこなくなった。

(22歳 女性)

義理の姉が亡くなった時のこと。彼女は一人暮らしだったので私たちが部屋の後片付けをしなくてはいけなくなった。片付けに行くことにしたその晩、夢に彼女が出てきて「これからいろいろと大変になると思うけど、よろしく」と言った。そしてその日からずっと左腕に原因不明の痛みを感じた。湿布を張っても医者に行っても治らず、夜中にも目が覚めるぐらいの痛みだった。しかし、片付けが終わったその翌日にはすっかり痛みは消えていた。半年間も痛みが続いたのになぜすぐに良くなったのかはわからない。まるで義理の姉の霊が憑いているような感じがした。精神的なものもあるとは思うが…。
(47歳 女性)

「知らせ」が、知らせてきたと感じられる人の死後もしばらく続くように思われることもある。

中学2年生の時である。自宅で起こった出来事なのだが、夜、就寝するため閉めたはずのリビングのドアが次の日の朝になって開いていた。ドアが壊れていたわけでもなく、家族は全員誰一人として開けた覚えはないという。こんなことがしばしば続くようになった。

実はその年は祖母が亡くなった年だった。父親は、祖母の霊がまだ家の中でさまよっているのではないかと言った。最初は家族全員、少し恐怖を覚えたが、そんな現象がぽつりぽつりと続くにつれて、「またおばあちゃんが来てたんだな」と冷静に受け止められるようになった。母親は「怖がることはないし、おばあちゃんが家を守ってくれているに違いない」と言った。

実際に祖母の霊を見たわけではないからこの現象が祖母の霊によるものなのかどうかはわからない。しかし、なにか恐ろしい目にあったというわけでもないから、「祖母はいつでも私たちの側にいてくれているのだ」と思えるようになり、現在、このような現象は起きていない。

(20歳 女性)

「情報の発信源」のように思われるのは人間だけではなく、ペットのような動物のこともある。

今年の9月ごろ、原因はわからないが、体がだるく、何事にもやる気がわかない日があった。疲れているのかと思ったが、なんとなく、いつもの体調の悪さとは違う感じがして、とても奇妙な感覚だった。

その後、実家の母から電話があり、可愛がっていた犬が死んだということを知った。犬は高齢だったせいもあるが、少し前から病気にかかっていた。そのため、ほとんど歩けなかったはずなのに、死ぬ少し前に歩いたらしい。私の体調が悪かったのは、犬が死ぬということを暗示した虫の知らせだったのだろうか。今になって考えると、犬が死ぬ直前に歩いたのは、犬を思う気持ちが強かったために、私の力が犬に届いたせいではないかとも思う。

(19歳 女性)

飼っていた犬が動物病院で死を迎える直前に、家のブレーカーが落ちた。このときはもちろんブレーカーが落ちるほどの電気は使っていなかった。母がブレーカーを直したとたんに、電話が鳴り、飼っていた犬が亡くなったことがわかった。

(18歳 男性)


これらはあくまでも事後的な体験談であって、遠くで起こったショッキングな出来事と、それとは無関係に身近に起こった小さな出来事を関連づけてしまっているだけなのかもしれない。しかし、体験内容が家族やペットの死という特定のテーマに偏っていることは注目に値する。


(2017-05-15 再掲 蛭川立