蛭川研究室

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知能・パーソナリティの小進化と遺伝子・文化共進化

知能

知能を、知能検査で計測できる1次元的な指標とすると、これには、サハラ以南のアフリカ<北アフリカ〜南アジア<ヨーロッパ系<東アジア、という人種差があることが知られている。[*1]ただし、その差は、ヨーロッパを標準として100±5の程度であり、個人差のほうが大きく、また知能検査がヨーロッパ人に都合よく作られているのではないことも示している。

これには教育などの社会的な要因、衛生状態の要因の他に、遺伝子の小進化という背景もある。つまり、人類は出アフリカ後、寒地への適応などの何らかの理由で、r戦略からK戦略へと進化してきたという考えであり、これは以下で議論する神経症的傾向とも関係がある。

セロトニントランスポーター遺伝子の小進化

5-HTTLPR(serotonin-transporter-linked polymorphic region)と関連するSNPであるrs11867581[*2]の、Gに対するAの頻度[*3]。rs3813034の、Aに対するCの頻度[*4]。

ASW アフリカ系アメリカ人 0.15 0.23
YRI ヨルバ(ニジェールコンゴ系) 0.00 0.17
LWK ルヒャ(ニジェールコンゴ系) 0.02 0.22
MKK マサイ(ナイル系) 0.08 0.06
TSI イタリア 0.60 0.53
CEU 西欧系ヨーロッパ人 0.58 0.42
GIH 北インド人 0.65 0.57
CHB 漢民族 0.82 0.88
HCB 漢民族 0.74 0.80
CHD 漢民族 0.86 0.85
JPT 日本人 0.77 0.81
MEX メキシコ系アメリカ人 0.61 0.62

セロトニントランスポーターは、シナプスにおけるセロトニンの再取り込みを行うタンパク質であり、抗うつ薬の一種であるSSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が作用する部位でもある。

この遺伝子は不安、鬱など、神経症傾向と関係するとされるが、これも知能と同様、アフリカ系<ヨーロッパ系<南アジア<東アジアの順に小進化が起こったことが示唆される。

遺伝子と文化の共進化

また、5-HTTLPR遺伝子は、社会の個人主義集団主義傾向とも相関する[*5]。

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西欧と日本がより個人主義的なのは、文化的な近代化のゆえにであると考えられる。「文化とパーソナリティ」の論客であったルース・ベネディクトは、1940年に著した『人種主義−その批判的考察』の中で、社会の特質が遺伝的な人種差によっては説明できないことの根拠として、日本人の社会が明治維新以降、急激に変化したことを挙げている[*6]が、これは短期間に起こった文化進化の好例であろう。

なお、民族間の遺伝的な差異について議論することが、必ずしも遺伝決定論や、差別を助長するものではないことは「人種・民族・文化」に書いたとおりである。


記事の信頼度 ★★☆☆☆


(西暦2016-11-18 作成 2017-05-11 更新 蛭川立

*1:https://iq-research.info/en/page/average-iq-by-country:title=2002〜2006年に国別に調査されたIQの値。

*2:rs2129785+rs11867581がA+Aの場合、91%がshortであり、A+Gの場合96%がlongであり、G+Gはほとんど存在しない。蛭川はA+Aである。

*3:HapMap/rs11867581

*4:HapMap

*5:Chiao & Blizinsky (2009).

*6:ベネディクト, R.・筒井清忠訳(1997).