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蛭川研究室

蛭川研究室の「はてなブログ」版です

精神医学における妄想と観念

妄想と観念

「妄想」とは、事実とは異なることを信じてしまうことである。これに対し、精神医学でいう「観念」、とくに「強迫観念」とは、事実とは異なっているとわかっていても、どうしても気になってしまう状態のことである。いずれも程度の差こそあれ、健常者でも体験することであり、とくに「観念」は、誰しもが体験することである。

被害と加害

精神疾患でよくあらわれるのが、被害妄想である。「スパイ組織に尾行されている」とか、「周囲の人たちが自分の悪口を言っている」といった妄想である。じっさいに悪口が音声として聞こえてくる場合には、これは幻聴である。いずれも、統合失調症でよく起こる。

被害の逆が加害であるが、加害妄想というのは、あまり体験されない。加害恐怖という場合は、すでに述べたように、じっさいには他人に危害を加えることはないとわかっていても、どうしても自分が他人に危害を加えてしまうのではないかという観念にとりつかれてしまうという症状である。こうした観念にとりつかれてしまう疾患を、強迫性障害という。

強迫観念には、たとえば不潔恐怖がある。お札や電車のつり革を触ると病気になるのではないかと心配したり、帰宅したら何度も手を洗ったりする。これは、むしろ「被害観念」とでもいうべきものである。しかし、こうした観念は、誰しもが持つものだが、これも程度の差である。

まれに、不潔恐怖の反対で、自分が触ったお札に、自分の汚れがついてしまい、「皆に汚れをうつしてしまう」という観念を持ってしまう場合もある。あるいは自己臭恐怖という疾患では、「自分の体臭が他人を不快にさせている」という観念を持ってしまう。これが妄想になってしまうこともあるが、とくに日本人に多いとされる。

誇大と微小

誇大妄想と微小妄想は、いずれも双極性障害うつ病でよくあらわれる症状である。双極性障害躁状態では、誇大妄想があらわれやすい。じっさいには大発見などしていないのに、「自分は天才で、大発見をした」などと思い込む症状である。

いっぽう、微小妄想は、うつ病双極性障害うつ状態(両者はほとんど区別できない)でみられることが多い。じっさいにはそれほど迷惑をかけていないのに「自分は周囲の人に多大な迷惑をかけてしまったので、死んでお詫びをしなければならない」とか、「自分のようなつまらない人間は、この世から消えてしまったほうがいい」などと考えてしまう。

こうした妄想も、やはり程度の差こそあれ、ある程度は誰もが体験することである。


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(2017-05-16 作成 蛭川立