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脳の状態としての意識の状態

脳の状態としての意識の状態

精神が物質世界をつくるという唯心論的な立場に立てば、異なる意識状態が異なる現実をつくるというのは、むしろ当然の考えである。いっぽう、唯物論的な立場からすれば、「本当の覚醒」状態とされる意識状態が存在すること自体は否定しないが、それもまた脳の特殊な働きであると解釈できる。たとえば、神経伝達物質であるセロトニンとよく似た構造を持つ、シロシビン、DMT(ジメチルトリプタミン)、LSDなどのサイケデリックス(精神展開薬)を摂取すると、これこそが「本当の覚醒状態」であると感じられるような、宗教的、神秘的な体験が引き起こされる。じっさい、中南米の先住民文化では、このような物質を含む薬草が儀礼的に使用されてきた。たとえば、メソアメリカの先住民族の間では、シロシビンを含むシビレタケ属の菌類がシャーマニズム的な儀礼の中で用いられてきた。

また、東~南アジアで発達した瞑想という身体技法を実践しているときの脳波を計測することで、脳の前頭葉の働きが抑制されているという研究もある[*1]。前頭葉の働きについてはまだわかっていないことが多いが、前頭葉の働きがゆるむことで、「覚醒」時には意識に昇ってこないように抑制されている無意識の情報が意識に昇ってきやすくなるという考えもある。また、側頭葉に電気刺激を加えることで、やはり神秘的な体験を引き起こすことができるという研究もある[*2]。ただし、これらの説明は、物質的な脳の働きと主観的な意識体験の間に相関関係があるということを示しているだけである。相関関係は因果関係ではない。


(2009/2552-06-19 作成 2016/2559-11-07 更新 蛭川立