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蛭川研究室

蛭川研究室の「はてなブログ」版です

人類学B(西暦2017年度)

講義概要

人間は、解剖学的構造や生理学的機能において他の動物と変わるところはない。しかし人間は、文化を持つ動物である。集団を作り生殖を行うという動物的な行為を、親族や婚姻といった象徴的な観念によって改めて意味づけし、そして、ときにその観念のほうに翻弄される。とりわけ、芸術や宗教などの精神文化は特異なものである。人間だけが歌い、踊り、描き、そして祈る。それは動物的生活からの解放であると同時に、動物的生存を否定する力にもなりうる。それは発展し科学的思考として純化されていった一方で、原始の呪術的思考は現代においても無意識の領域で活動を続けており、精神疾患という歪められた形で表出することもあれば、現代美術や現代音楽を生み出す創造力ともなってきた。

四十億年におよぶ生命史の中で、なぜ人間だけが他の動物とは異なる存在になったのか。その違いはどこから始まったのか。進化的な起源をたどる一方で(おもに人類学Aで扱う)、脳の構造や機能という観点からも考察する(おもに人類学Bで扱う)。

人類学Aでは、まず人類の進化史を振り返り、人間が文化を持つようになり、その文化によって世界をいかに秩序づけようとしてきたのかを考察する。婚姻、親族、経済、暦法などを概観しつつ、より抽象的な精神文化である、芸術と科学へと話を進める。

人類学Bでは、特異に進化した人間の脳の構造と機能と、それを規定している遺伝子の進化も併せて概観しつつ、シャーマニズム、呪術、神話、他界観などの宗教文化を俯瞰しつつ、その背後にある脳の働きについて考察する。また、そうした宗教現象が近現代の精神医学によって病理化されてきた歴史についても、精神疾患の神経科学的知見とともに触れておきたい。

人類学は人間を研究する学問であるが、対象としている人間の範囲が他の諸分野より広い。各地の少数民族や、遺跡や化石にしか痕跡をとどめていない過去の人々、あるいは近縁の霊長類までも視野に入れる。人類学は自然科学に属する自然人類学と、人文科学・社会科学に属する文化人類学社会人類学に分けられるが、近年では両者が別々の研究分野へと分離していく傾向にある。しかし、学際的な学部であることも鑑み、この講義では、自然人類学を基盤にしつつ、文化人類学社会人類学の視点も取り入れながら、総合的に議論を展開する。また、現代のグローバル化する社会では、開発と貧困、民族問題と宗教紛争などに対応する、応用人類学の重要性が増しつつあるが、それらの問題については、より社会科学的な内容を扱う、別の講義で併せて学ぶことをお薦めする。

対象としている人間集団の範囲が広いため、あまり馴染みのない地域や時代も取り上げるが、おもに蛭川が実際に訪れたことがある場所(遺跡なども含む)で、適宜、自ら撮影した写真や動画も併せ、視覚的、聴覚的イメージも交えながら講義を進めていきたい。

春学期の人類学Aと秋学期の人類学Bは、内容に重複もあるが、独立の科目である。人類学Aと人類学Bは単独でも受講できるが、春学期のほうで人類進化の基本を扱うので、両方を受講するのであれば、人類学Aから人類学Bの順で履修したほうが、より理解しやすい。

講義計画

講義はライブである。とくに西暦2017年度は新しいカリキュラムの初年度でもあり、必ずしも公式のシラバスどおりには進まないかもしれない。以下の講義計画は実際の授業の進行に合わせて随時アップデートしていくので、こまめにチェックすることをお勧めする。

日程 内容 地域・テーマ
01 思考と空想(全体の展望)  
02 脳の構造と機能  
03 神経系と脳の進化  
04 遺伝子と神経伝達物質
05 遺伝子と文化の共進化 パーソナリティと遺伝子
文化とパーソナリティ
遺伝子検査
06 シャーマニズムの神経薬理学 中米先住民のシャーマニズム
    アマゾン先住民シピボのシャーマニズム
    邪術がもたらす均衡
07 向精神薬の民族科学 インド文化と聖なる植物
太平洋諸島のカヴァ茶道
08 正常と異常 沖縄と古代日本のシャーマニズム
現代医学における精神疾患の概念
シャーマニズムと精神医学の現代史
モンゴルにおける政治と宗教
09 芸術の中の元型 アマゾン・アンデス先住民
縄文文化
10 神話の論理 記紀とオーストロネシア神話
南米先住民の神話
    起源神話における時間対称性の破れ
11 大脳化と宗教儀礼の起源 葬送儀礼の考古学
12 他界観と神経科学 インド文化における輪廻と解脱の観念
チベットとモソ・ナシ族の葬送儀礼
浄土信仰
臨死体験の神経科学
13 瞑想の文化と生理心理学 瞑想・ヨーガ・禅
    タイの一時僧制度
瞑想の神経生理学的研究
14 文化相対主義と意識状態相対主義(まとめ)  
15 定期試験  


(2016-12-25 作成 2017-01-09 更新 蛭川立