蛭川研究室

蛭川研究室の「はてなブログ」版です

サイケデリックス

単純な分子構造と複雑な意識変容

典型的なサイケデリックスは、DMTやシロシン・シロシビンなど、セロトニン(5-HT)と非常によく似た構造を持っており、5-HT2受容体のアゴニストだと考えられている。単純明快な分子構造でありながら、変則的体験、超常的体験、あるいは宗教体験といった強い変性意識状態を引き起こすことから、こうした体験が意外に単純なメカニズムで引き起こされることを示唆している。しかし、一見単純な分子構造の神経伝達物質による情報伝達がどのように組み合わされて複雑な認知や思考のプロセスが生み出されてくるのか、そのメカニズムについては、依然としてよくわからないことが多いままである。f:id:ininsui:20160619161029j:plainf:id:ininsui:20160619161015j:plain(左:DMT、右:セロトニン

サイケデリックス」あるいは「幻覚剤」という呼称

変性意識状態を引き起こす物質の呼称として最も良く用いられるのがpsychedelicsである。これはギリシア語のpsychē(魂)とdelos(顕現)から作られた英語である。無意識が意識化するといった意味であり、日本語では精神展開薬と訳されるが、そのままサイケデリックスと表記されることも多い。ただし「サイケデリック」というカタカナ語には、幻覚が見えて精神異常を引き起こすといったニュアンスも含まれるようになった。薬物乱用の文脈では幻覚剤 hallucinogen が一般的だが、これも有害な副作用だけに注目した呼称で、中立的ではない。積極的に神秘体験を引き起こすという意味では、entheogenという呼称が提案されている。これは、エンテオゲン、エンシェオジェン、または顕神薬と訳されるが、「神」という語を用いることが、やや宗教的なニュアンスを強めてしまう。呼称の統一が難しい物質群だが、それだけ多様な体験を引き起こしうる可能性がある物質群だということもできる。

伝統文化の中のサイケデリック

サイケデリックスを含む薬草の使用は、中南米の先住民文化に偏っている。アマゾン川上流域のアヤワスカ(「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」)、オリノコ川流域のヨポ、エペナ、アンデスのサン・ペドロ、中米南部のシビレタケ、中米北部のペヨーテ、西アフリカのイボガなどである。サイケデリックスに準ずる作用を持つ薬草としては、シベリアベニテングタケ、南アジアの大麻、南太平洋のカヴァなどがある。(「意識変容の人類学」「死生観の人類学」「『茶』の文化的バリエーション」)


(2016/2559-10-10 作成 10-11 更新 蛭川立