蛭川研究室

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アマゾン先住民シピボのシャーマニズム

豊かな<南>の社会

アマゾン上流で最大の支流のひとつであるウカヤリ川は、アンデスの高地から流れ出す小さな支流を集め、ペルー領内を細かく蛇行しながら北上する。その流れにそってシピボまたはコニボと呼ばれる、パノ系の言語を話す先住民族が暮らしている。

ウカヤリ川に沿って発達した、ウカヤリ州の州都、プカルパの近郊に作られた、サンフランシスコ共同体(地図)は、シピボの最大の集落である。シピボの人々は、もともと、焼畑を繰り返しながら半定住的な生活を送ってきた。大規模な集落は、キリスト教系のミッションの後押しによってつくられたものである。

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三月はカルナバル(カーニバル)の季節である。人々が、集落の中央に十字架を立てる。建前上はキリスト教が受け容れられている。流れる音楽の旋律は、アンデスフォルクローレである。アマゾン先住民独自の文化、ケチュア語などのアンデス文化、カトリックなどのラテン系文化、そしてポスト・コロニアルな現代文化の、四層からなるシンクレティズムが、この地域の文化を特徴づけている。

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世界の各地の春祭りと同様、カルナバルでも、お互いに水をかけあうという習慣がある。男の子たちが、風船に詰めた川の水を、女の子たちにぶつけている。好意を悪戯で示す、そういう年頃なのだろうか。二十歳前ぐらいから母親になる女の子たちも多い。かつては成女儀礼として、膣口を切開して広げる手術が行われていたという。これは、父系社会における女子割礼と対照をなしている。妻方居住婚が行われており、はっきりした出自集団は存在しないが、母系的な色合いの濃い社会である。

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(学校に張ってあるポスター。左は家族計画を呼びかけるもので、右は自分たちがペルー共和国という国家に属するのだということを学ばせる塗り絵。)

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(船に乗ってサンフランシスコまでやってきた「選挙船」。2000年の大統領選挙は、現職のアルベルト・フジモリに投票するように訴えている。「投票用紙には、このようにマークしましょう」と書かれている。)(政治的活動の写真を撮ることには、十分な注意が必要である。

子育て、主食であるマンジョーカを栽培すること、料理すること、洗濯など家事一般、そして布や土器などの手芸・工芸は、主要な現金収入源でもあり、女の仕事である。女性の経済的地位は高い。

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(マンジョーカ(シピボ語ではユカ)の畑。手前が焼かれた部分。マンジョーカは、茎を地面に刺しておくだけで簡単に増えていく。)

とくに、土器を上手に作ることは、女性の仕事の象徴である。女たちは、自分のお気に入りの粘土がある場所を、他の女には知られないようにする。(この慣習とその神話的意味については、レヴィ=ストロースの『やきもち焼きの土器作り』に詳しい。粘土の起源神話にかんする抽象的な議論は「起源神話における時間対称性の破れ」と「対称変換としての文化起源神話」を参照されたい)。家の中で女性がせっせと働き、男たちは家の外で手持ち無沙汰に立ち話などしているという光景は、とりわけ熱帯の母系的社会によく見られる光景である。

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(コリン・ラビさんがお土産用に売っている壺。容器としての妊婦は、縄文時代中期の土器を彷彿とさせる。ユングノイマンのいう普遍的な大母 Große Mutter 元型 Archetyp である。)

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腰巻きにする布に、特徴的な幾何学模様を刺繍しているのは、私が居候していた家のお母さん、エリサ・バルガス Elisa Vargas さん。後で触れるアヤワスカという薬草茶を一服したときに見えるビジョンがモチーフだとも、またピリピリ piri piri (Cyperus corymbosus) という植物(写真下)を目に垂らしたときに見える模様だとも言われている。(これもまた女の領分なので、私はこの秘密の目薬を試すことはできなかった。)

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一方、男の仕事は、川で魚を捕ることであり、また森で小動物を捕ることもある。現在では、カヌーで町に買い出しに行く仕事のほうが増えた。もっとも象徴的なのは、薬草の助けを借りて、精霊の世界の知識を深めることである。かつては男たちの重要な「仕事」だった戦争は、もう行われてない。

川魚をおかずにして、ゆでたり揚げたりしたマンジョーカやバナナを食べるというのが伝統的な食事である。

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上の写真は、近所のフリオ・ウルキーヤさんと一緒に釣ってきたピラーニャをニンニク味で挙げたもの。揚げたバナナは定番の主食。船の上から、生肉を針の先につけた糸を垂らすと、あっという間にピラーニャが殺到してくる。これで一家族、数人の、一日ぶんの食料をまかなおうとするのであれば、三時間ぐらいあれば充分である。薬草についての知識に長けた人たちであり、毒を撒いて魚を殺し、一網打尽にする技術も持っている。

じっさい、R・ヘイムズは、アマゾンの焼畑農耕民シピボ、ママインデ、ワヤナ、ヤノマミ、ヤノマモ、イエクワナ、メクラノティ、マチゲンガ、アチュアラ、ワヤナの10民族で調査された労働時間を集計して、その平均値を計算している。それによると、一日あたりの平均労働時間は、女性のほうがやや長いが、共に約5時間だという。これは、狩猟採集民、集約農耕民、および現代の賃労働者と比べて最短である。労働時間の短さは、それだけの時間働けば食べていけるということを意味しており、それはまたその社会が持っている時間的余裕、ある種の豊かさを表している。ヘイムズはアマゾンの先住民こそ世界でもっとも時間的に豊かな人々であると結論している。逆に、もっとも時間的に貧しいのは、もっとも文明化された現代の賃労働者か集約農耕民かのどちらかだということになる。(ヘイムズがまとめた労働時間の一覧表はこちら

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新世界ザル(アメリカ大陸のオマキザル科のサル)であるリスザルは賢く、ペットとして可愛がられている。シピボの人たちは、互いに頭髪のシラミを取り合う(グルーミング)ことで、互いの親愛を深めるが、ペットのリスザルを「肩乗り」として飼い慣らすと、頭髪のシラミをとってくれるようになる。しかし、このリスザルは、重要な来客をもてなすときのご馳走にもなる。

アヤワスカ

シピボのシャーマニズムの中核をなすのが、アヤワスカという薬草茶を用いた「茶会」である。ウナヤ、あるいはムラヤ、またスペイン語でクランデロ(治療者)と呼ばれるシャーマンが、時には自分一人で、または数人の来談者と共に、アヤワスカを服用し、サイケデリックな変性意識状態に入り、精霊の助けを借りて、病気の原因を探したり、病気を治療したりする。

アヤワスカ茶は、やはりアヤワスカ*1と呼ばれる蔓植物と、チャクルーナ*2と呼ばれる植物の葉を煮込んで作られる。

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アヤワスカの蔓)

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(チャクルーナの若い苗)

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エリサ・バルガス Eliza Vargasさんの夫、アルベルト・サンチェス Alberto Sanchez さんと、その父親であるロベルト・サンチェス Roberto Sanchez さんが、アヤワスカ茶を準備している。女たちがお気に入りの粘土のある場所を秘密にしているように、男たちもお気に入りのアヤワスカやチャクルーナの生えている場所を秘密にしている。上記の写真は、アルベルトさんの庭にあるちいさな植物園に植えられているものである。

アヤワスカ茶は、煮詰め具合による濃さにおうじて、黄( huíso )、赤( joshín )、黒( huíso )に分類される。通常の茶会で振る舞われる「薄茶」は黄色いアヤワスカである。シャーマンになるためには三ヶ月ばかり森に籠もってアヤワスカ茶を飲み続けなければならないが、修行用には赤いアヤワスカや黒いアヤワスカが用いられる。

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「茶会」は、夜半前から始まり、夜明け前には終わる。ロベルトからお茶を振る舞われる、プカルパ在住のメスティソの友人、ウェリントン君。何時間も煮詰められたアヤワスカ茶には、コーヒーをもっと濃厚にしたような、苦みと酸味がある。また、服用直後には強い吐き気を伴うことが多い。何度も飲んだことがあると、味を感じただけで反射的に吐き気がしてしまう人も少なくないという。

治療儀礼

別の治療儀礼の準備をするロベルト。シャーマンは世襲制ではないが、息子のアルベルトが助手役をつとめている。ふだんは婿入りした妻のエリサの家に住んでいるが、儀礼の時には実家である父親の家に戻ってくる。

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ロベルトは、熱心なクリスチャンだった父親に、子どものころから何度も聖書を読まされた。14歳の時、いつものように聖書を読んでいたとき、ロベルトはその聖なる言葉の中に光を見た。目も眩むような、真っ白な光だったという。それが、彼をシャーマンへの道に進ませた「回心」の体験だった。カトリック教会は、こうした神秘体験や、民間の信仰治療には許容的である。

アメリカなどから来ている、プロテスタント系宗教のミッションの中には、先住民の呪術的伝統を嫌う動きもあるが、シャーマンの側のアルベルトは「あいつらファナティコ(狂信的)だからな」と言って、嫌悪感を顕わにしていた。「迷信」の中に生きている先住民のほうが、教化のためにやってきたミッションを見下しているところもある。

シピボの伝統的な世界観によれば、天上に精霊たちの住む世界があって、階段のような通路で地上とつながれているという。そして、アヤワスカ茶を飲むことで、そこへ昇っていくことができるのだという。アルベルトはその「旅」を宇宙旅行にたとえる。「グリンゴ[*3]はロケットで月に行くらしいけど、われわれにはロケットなんて必要ない。アヤワスカで月にも別の惑星にも行けるんだからね」

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シピボの伝統的な家屋には柱だけがあって壁がない。マパーチョという特別なタバコの煙を吹いて、邪悪な精霊や妬みから儀礼の場を守るために「結界」を張る。いわゆる「未開」社会では、互酬性にもとづく平等主義が一般的で、積極的な妬みにもとづく邪術も盛んである。シピボの社会にも「ユブ」と呼ばれる邪術師が存在する。クランデロは治療儀礼で病気の原因を探す。多くは邪術によるもので、その妬みの力を抜き去るのがクランデロの仕事である。

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瓶に入っているのは治療儀礼用の特殊な水で、ロベルトがそれに向かって精霊の歌、イカロを歌う。イカロの旋律は、どこか、もの悲しい。イカロを歌うシャーマンの発声は、まるで電子音のようでもある。感情的要素の強いラテン系文化とも、またアンデスケチュア系文化とも異なる、アマゾン先住民独自の音楽的世界である。

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この日にやってきたのは、発熱がおさまらない赤ん坊を連れた若い両親である。サンフランシスコのような共同体では、病院で近代的な医療も受けられるが、それでは治らない場合、シャーマンのところに行く人も多い。精霊の歌が込められた水やタバコの煙を吹きかけて病気を治療する。この「気」を「マリリ」という。マリリという実体がクライアントの身体に働きかけるという考えもできるし、マリリを象徴的な構成物だと考えることもできる。近代的な医学による検査で異常が見つからなかったものは心因性の病気である可能性が高く、象徴的効果・プラセボ効果が自然治癒を早めることは事実である。

乳児にはプラセボ効果はないかもしれない。ロベルトは赤ん坊の父親も「治療」しているが、あるいはこの両親に問題があるのかもしれない。問題を抱えた親子や夫婦などの全体を診ようとする姿勢があるとすれば、これは現代の精神医学・臨床心理学の問題意識を先取りしている。

タバコの原産地がアマゾンであることは、意外に知られていない。写真は、マルバタバコ Nicotiana rusticaスペイン語ではマパーチョと呼ばれる。

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下の写真の左下に置かれているのが、マパーチョである。

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(プカルパのタバコ屋さんと、その息子のウェリントン君。滞在中には、彼にいちばんお世話になった。元々は軍人だったが、エクアドルとの国境紛争に従軍し、戦争の空しさを悟ったという。軍隊を離れたあと、後に触れる、パブロ・アマリンゴと出会い、その平和的な人柄に惹かれ、ウスコ・アヤール絵画学校の教師となった。)

シャーマニズムの観光化

1980年代から、サンフランシスコ共同体は、ペルーにおける「アヤワスカ・ツーリズム」の中心地としても栄えており、主に欧米から、近年では日本から、多くの「観光客」を集めている。一定の「修行」を修め、シャーマンになる人々も現れている。

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(西暦2001年に改装されたプカルパ空港。シピボの泥染めが職員の制服になっている。それまでは、森を切り開いて作られた滑走路の脇に小屋があるだけの、簡素な空港だった。)

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(写真の看板には「アヤワスカ儀礼センター(中略)へようこそ!」と書いてある。広告を出している「San Juan」は、ビール会社である。)

私自身も、そうしたツーリズムに乗せられた一人だった。下の写真は、エリサ・バルガスさんと、アルベルト・サンチェスさんと、その子どもたち、近所の子どもたちである。

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(エリサとアルベルトの家では、ベッドつきの快適な個室に滞在させてもらった。アルベルトは、観光客を家に泊めて自分だけが金持ちになろうとしているという理由で、ユブによって呪いをかけられていたらしい。呪いには、富の偏在を防ぐという社会的機能がある。)

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同じサンフランシスコ共同体のウナヤ、マテオ・アレバロさん。やはり、治療儀礼でタバコの煙を使っている。頭頂や手のひらなど、いくつかの重要な場所に「気」を吹きかけている。とりわけ頭頂にある「穴」が重要だとされるが、これは、中医学における百会や合谷などの経穴の概念とよく似ている。頭頂の「穴」は、ハタ・ヨーガにおけるサハスラーラ・チャクラとも類似した概念である。

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通常の治療儀礼では、シャーマンがアヤワスカを飲むが、マテオさんは、来客にもアヤワスカ茶を振る舞っている。おおよその相場は、一杯三千円ぐらいで、現地の物価からみて、それほど安いわけでも、また、それほど高いわけでもない。ふだんはTシャツを着ているマテオさんも、儀礼では泥染めの民族衣装である。左腕には立派な腕時計をしている。といって、彼は特別に貪欲な人間ではない。村の中には同じようにツーリストを受けいれるシャーマンたちが多数いて、なんとなく共存している。その後、サンフランシスコには、ツーリスト専用の儀礼用ロッジが作られるようになったという。

悩める外人たちが、森の精霊たちの智慧を求めて、はるばる飛行機に乗って飛んでくる。村の子どもたちは、液晶画面に映し出される「ポケットモンスター」の精霊たちに見入っている。外人たちは、神秘的な薬草が病気を治してくれると期待する一方で、先住民の人たちは、不足しがちな近代医学の薬を求めている。奇妙なすれ違いが、なんとなく共存している。

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(上:「『トリムルティ』ただいま上映中」、下:「ドラゴンボールZ(セタ)」。プカルパのようなアマゾンの田舎町でも、実写映画はインド産、アニメは日本産に席巻されている。「トリ・ムルティ」とは、ヒンドゥー教における三位一体、つまり、ブラフマー(創造神)・ヴィシュヌ(維持神)・シヴァ(破壊=再創造神)のことである。)

富や権力の偏在は、平等主義的な社会では忌避される。サンフランシスコ共同体には、村長の胸像が建てられている。彼はその像を指さしては当惑し、カタコトのスペイン語で「これじゃあ私がもう死んでしまったみたいじゃないか」と苦笑していた。典型的な「未開」社会における、望ましいリーダー像というのは、周囲の人の話をよく聞く、自己主張の弱い、腰の低い、物わかりの良いおじさんである。強いリーダシップは、妬みと邪術の対象となる。これは、日本人の社会とも似ている。

アヤワスカ茶の内的宇宙

アヤワスカ茶は、有効成分であるDMTなどの作用で、精神展開(サイケデリック)作用を引き起こす。その体験世界は写真に撮影することも、動画に収録することもできない。女たちが作る土器や布が、その視覚的体験を写し取っているが、伝統的な美術工芸に、具体的な精霊などの姿が描かれることはない。

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(上:Loneta Teñida(画)Roldán Pineda・Elena Valera(布)『Curación Mediante la Toma del Ayahuasca(アヤワスカの治療儀礼)』、下:Dibujo de Marcial Vásquez・Elí Sánchez『Cosmovisión(宇宙的ビジョン)』いずれもアマゾン博物館 Museo Amazónico (イキトス市)所蔵。作者は全員シピボ。)

上の絵は、アヤワスカ茶会の様子を描いたものである。中央下部でシャーマンが治療儀礼を行っているが、背景には「現実」世界の家や森、星空と同時に、精霊たちの姿が描かれている。これは、アヤワスカ茶を服用したときに見える光景を、かなり写実的に描いている。下の絵は、こうした儀礼的体験に対応する世界の構造を描いている。世界は層状になっており、一番下に、日常的な「現実」世界がある。アヤワスカ茶を服用することで、この複数の世界を行き来することができる。

先住民文化の外部で、アヤワスカ茶を服用したときの内的体験を、より正確に描き出すことに成功したのが、プカルパのメスティソ、パブロ・アマリンゴ Pablo C. Amaringo である。彼は、メスティソ社会に浸透してきた先住民のシャーマニズムの影響を受けてクランデロになったが、がんらい争いごとを嫌う温厚な人物であり、クランデロどうしの妬みによる黒呪術戦に疲れ果て、引退し、専業の画家となった。その作品は世界中から広く注目されることになり、その収益と海外からの援助によって、1988年に、プカルパ市内にある自宅を改築して「ウスコ・アヤール(Usko Ayar: 精霊の子どもたち)」という絵画学校を設立した。(私も居候してアクリル画を学んだ。)

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(ウスコ・アヤール絵画学校にて、パブロ・アマリンゴと著者)

アマリンゴさんは、アヤワスカのビジョンよりは、むしろ風景画を好み、絵画学校に集まってくる子どもたちにも、森の風景の描き方を教えていた。アマリンゴさんは、あるアヤワスカ茶会のビジョンの中で、宇宙船に乗せられ、銀河系の中心で行われている賢人会議に連れて行かれたという。彼が持ち帰ってきたのは、失われつつある森を守れというメッセージだった。体験後、価値観が変わり、環境保護活動などに傾倒していくのは、西洋のエイリアン・アブダクション体験と似ている。

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サンフランシスコの、マテオ・アレバロさんも、アヤワスカ茶会のビジョンの中で、エイリアンに遭遇したという。彼に頼んで、その姿を書いてもらったが、欧米で流行しているエイリアンの姿とそっくりである。

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こうした体験や価値観は、外部の文化との接触によってもたらされたものだと推測されるが、逆に、いわゆるエイリアン・アブダクションという体験と、アヤワスカの有効成分であるDMTの作用に、神経科学的な関係があることが指摘されており、その脳内メカニズムを解明する手がかりとなっている。

アマリンゴさんは、アヤワスカのビジョンの世界は、手描きの絵などではなくCGで再現したいと語りつつ、2009年に精霊の世界へと還っていった。享年74才であった。

オランダの映画監督、ヤン・クーネン Jan Kounen は、映画『Blueberry』の中で、ペルー・アマゾンなどでの自らの体験を、作品のストーリーに織り込みながら、映像化を試みている。多分に誇張されているとはいえ、これは西洋人的なアヤワスカ体験の世界を写実的に描写している。

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シピボの人たち自身は、幾何学模様や、精霊の姿に、神話的な意味を見いだしているが、西欧系の人々などの、近代化された自我に対してアヤワスカ茶が働きかけると、自我が強固に構成されているぶんだけ、それが脱構築されるとき、より実存的な、そしてより超越的な体験が引き起こされる。過去の記憶や、その意味などに対する内省が呼び起こされ、ときにはその後の世界観・人生観が大きく変わってしまう。これは、本来の先住民文化の文脈には、なかったものである。サイケデリックな体験をした西洋人(そして日本人)たちが、愛や平和を説くようになるいっぽうで、アマゾンの先住民たちは同じアヤワスカ茶を飲んで邪術戦を展開しつづけている。

先住民が治療儀礼に用いていた薬草が、その伝統文化の文脈を離れ、近現代社会において顕著になってきた、心因的な、神経症的な問題を解決したり、哲学的洞察や芸術的創造とも併せて、近代社会を超克する、いわばポスト・モダンな文脈でグローバル化していく可能性を秘めている。とりわけブラジルのアヤワスカ新宗教運動(サント・ダイミ、ウニオン・ド・ヴェジタル、バルキーニャ)は、サンパウロなどの大都市を通過してグローバルな展開をみせているが、このことは、また稿を改めて議論したい。


※以上は、主に西暦2000〜2001年の滞在にもとづいて書かれたものであり、現在とは内容が異なる部分があります。

※参考文献:蛭川立(2003)『彼岸の時間−<意識>の人類学−』春秋社

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(2016-06-10 作成 2017-03-29 更新 蛭川立

*1:シピボ語ではオニ

*2:シピボ語ではカウア

*3:ギリシア語を話す人々→意味不明な言葉を話す人々→英語を話す人(とくにアメリカ白人)に対するやや侮蔑的な呼称