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蛭川研究室

蛭川研究室の「はてなブログ」版です

近代ヨーロッパと自然科学的コスモロジー

コスモロジーの地域史略論」に書いたとおり、現在、グローバル・スタンダードになっている(恐らくは地球外でも普遍的に通用しうる)自然科学的なコスモロジーは近代ヨーロッパに由来する。その原型は古代ギリシアの哲学にみることができる。

自然科学的なコスモロジーは、人間は世界の中心だという観念の否定の連続であった。古代のギリシアでは地球が球形をしているということや、太陽の周りを回っているという考えが現れたが、中世のアラビア世界には受け継がれず、自然科学的なコスモロジーの発展はほぼルネサンス以降のヨーロッパ文化の中で起こった。地球は太陽の周りを公転する惑星の一つとなり、太陽は銀河系を構成する無数の恒星の一つとなり、銀河系もまた宇宙に散らばる無数の銀河の一つであるという階層構造が明らかになった。ミクロなスケールに目を転じると、人間だけが他の生物と違う精神を持っているわけではなく、生物の身体を構成する有機物も無機物と同じ原子、素粒子からなることが解明されてきた。こうした一連の発見のほとんどは、19世紀から20世紀にかけての短い期間に加速度的に成し遂げられた。

自然科学から派生した技術は人間の生活を飛躍的に豊かにしたが、副作用も起こった。そもそも、技術の背景となってきた自然科学的な世界観は人間中心の価値観とは相容れないものである。20世紀になると、西洋文明は自省を始めたが、そのひとつの動きが進化論的な人類学から分岐した文化人類学である。非西洋世界が西洋化を進め、いわゆるグローバル化が進む一方で、西洋世界では、それまで遅れたものと見なされてきた「東洋」や「未開」文化が見直されるようになってきている。非西洋文化を再考しようとした文化人類学と、精神疾患とされる人々の思考様式を解明しようとしてきた精神医学・臨床心理学の二つの領域が、西洋におけるいわゆる現代思想の形成の泉源となった。


(2016/2559-01-12 作成 蛭川立