血液型トーテミズムと婚姻規則

 日本を中心とする極東アジアには、ABO式血液型とパーソナリティとの間に関係があり、また各々の血液型ごとに、互いに好ましい結婚相手などの相互関係があるという観念がある。統計的な研究によれば、実際の相関関係はないか、あってもわずかであり(予言の自己成就や、表現型ではなく遺伝子型による分析を含む)人間が四種類のクラスタにはっきり分かれるということはない。それゆえ、こうした観念は「非科学的」な迷信の一種とみなされることが多い。しかし、こうした人間の分類体系は、トーテミズムの一種として、その内的な論理を解明することのほうに意味がある。(小山由, 2014,「トーテミズムとしての血液型人間分類」常民文化 (37), 1-30)。

 血液型人間分類がトーテミズムとして捉えられるということは小山の論文に詳しいのでここでは繰り返さない。ただし、四個の集団の相互関係について、小山は「輸血」を例にして構造分析を行っているが、まず婚姻に着目するのが人類学的には妥当であろう。婚姻可能な集団を四個に分ける規則としては、北西オーストラリア先住民の「カリエラ型」が典型的なものとして知られている。それでは、日本の血液型トーテミズムにおいては(夫方居住婚と仮定して)どの集団の女性がどの集団の男性のほうに移動するのが好ましいと考えられているだろうか。集団ごとの実際の婚姻の比率を偏りなく調べるのは難しいが、ここでは観念としての好ましさが分析の対象となる。ただし婚姻の好ましさについての観念は一定ではなく、多様であるが、まったく規則がないわけではない。以下に代表的と思われる「ランキング」の二つの例を挙げて分析してみる。(4個の集団の相互の関係は内婚も含めて16通りあるが、そのうちの上位の半分ぐらいを好ましさの目安とした。)

 (1)「相性がいいと思う血液型の組み合わせランキング」(gooランキング)から上位七位をとって図に表すと以下のようになる。(矢印は親子関係ではなく、女性の移動を示す。)
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 (2)「決定!血液型相性ランキング」(テレビ朝日)から上位十位をとって(七位を恣意的に例外として除外し)図に表すと以下のようになる。(矢印は親子関係ではなく、女性の移動を示す。)
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 いずれもカリエラ型のような整然とした群の構造はなさないものの、両方でかなり明確で対称的なパターンがみられる。日本人におけるABO式の血液型の表現型がA:O:B:AB=4:3:2:1という順になっていることからすると、(1)の偏りは自然である。(1)と(2)のいずれも、内婚は禁止されず、むしろ推奨される一方で(日本は内婚的な社会である)男女いずれも、しばしば最下位の「カースト」とされるマイノリティであるAB型集団は「有徴」であり、通婚は忌避の対象となる。
 ここでは(1)と(2)の二例だけを分析対象にしたが、おおよそ共通する規則をまとめると、以下のようになる。

 AとOの両親からはAとOの子しか産まれないので、この婚姻は閉じている。

 BとOの両親からはBとOの子しか産まれないので、この婚姻は閉じている。

 AとBの両親からは半数の割合でABの子が産まれ、ABの集団に移動することになる。

 ABの両親からは四分の一の割合でAまたはBの子が産まれ、それぞれの集団に属することになる。彼(女)らは自集団またはOの集団との通婚が可能になる。

 結果として、世代が進むにつれてABの集団はなくなってしまう。このことから、以上で議論した婚姻規則は実際には行われていない、観念的なものであるか、行われていたとしたら、数百年も前から行われていたものではなく、また今後数百年も続くものではないといえる。じっさい、この観念が日本で広まったのは、歴史的研究から、たかだか数十年前だとされている。

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(2016/2559-01-10 作成 06-28 更新 蛭川立