「東洋」という概念

地球上の「文明」を「西洋」と「東洋」に分けるのは、あくまでもヨーロッパ中心の視点であり、人類学的には、あまり妥当な分類ではない。

ヨーロッパ「文明」を中心としてみた場合、地球上の諸文化は、まず「北/南」=「文明/未開」に分節され、さらに北側の文明世界が「西洋/東洋」に分節される。

地球は球体なので、この東西の区別は、逆でもかまわない。また「西洋」と「東洋」という区別も、「暗黒大陸」であるアフリカと、「新大陸」であるアメリカ大陸やオーストラリア大陸を除いた、ユーラシア大陸だけに限った視点である。しかも、ヨーロッパ人が「西洋」を自称する場合、そのヨーロッパ(とくに西欧)は広大なユーラシアの西の端に、ちいさな地域を占めるにすぎない。そして、東欧の東部から西アジアの西部にかけてを「近東 near east」、その東を「中東 middle east」と呼び、もっとも東の端の地域を「極東 far east」と呼ぶ。それらをまとめて「東洋」と呼ぶのだが、それは、ユーラシアにおけるヨーロッパ以外、という程度の、消極的な概念にすぎない。

人類学の視点から、ヒトの文化を分類するときには、基本的に、民族〜言語を用いる。現在話されている、あるいは最近(およそ西暦1500年ごろを基準にすることが多い)まで話されていた言語の数は、言語の定義次第ではあるが、約数千のオーダーである。言語は、語族 language family という概念で分類される。アメリカ大陸先住民の言語などを中心に、類縁関係がよくわからない小グループが多数存在するため、語族の分類は未だに確定していない。

語族レベルでみたとき、ヨーロッパは、インド・ヨーロッパ語族という語族の圏内におさまるが、興味深いのは、インド・ヨーロッパ語族は、イランや北インドなどまで含んだ、東西に長い地域にまたがっているということである。さらに視点を、北インド・イラン以外の「東洋」にうつすと、おおまかな語族の分類でも、アフロアジア語族、チベットビルマ語族、オーストロネシア語族など、じつに多様であることがわかる。とりわけ「極東」に、韓国・朝鮮語、日本語、アイヌ語、ギリヤーク語など、系統関係がはっきりしない言語(孤独語)が多数あることは、特筆に値する。

いっぽう、言語ではなく、社会構造の点から民族の分類を試みると、ユーラシア大陸の内陸部には、牧畜社会・父系社会が多く、逆に東西の海岸部には、農耕社会・双系社会が多い。より厳密に、イトコ呼称による社会構造の分類では、「エスキモー型」の社会(エスキモー型のイトコ呼称体系を持つ双系社会)が、ヨーロッパと、大陸をはさんで対称的な場所にある日本~東南アジアに集中しており、これらの社会を「第一地域」、それ以外の社会を「第二地域」と呼ぶこともある。エスキモー型の社会は、端的にいえば、ゆるやかで柔軟な社会構造を持っており、それが、これらの地域で資本主義文明が発達するのを容易にした、という考えもある。


(2011/2554-09-20 作成 2015/2558-10-06 修正 蛭川立