蛭川研究室

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インド的精神文化の成り立ち

インド世界は、〈乾いた北〉から〈湿った南〉への、たびかさなる文化の侵入の累積によって成り立っている。その流入の順は、先住民(オーストロアジア語族)、インダス文明(ドラヴィダ語族説が有力だが不明)、アーリア人(インド・ヨーロッパ語族インド語派)、チベット系文化(チベットビルマ語族)、イスラーム文化(アフロアジア語族が起源)で、さらにイギリス(インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派)による植民地支配へと続く。

蛇、菩提樹、男根(リンガ)への崇拝は、オーストロアジア系基層文化に起源をもち、牡牛、獣王(シヴァ神の原型か?)、女神崇拝、瞑想や沐浴の習慣は、ドラヴィダ系先住民文化に起源をもつと推定されている。とくに、インダス文明の都市遺跡モヘンジョ・ダロから発見された、踵を会陰部に当て、ペニスを勃起させながら瞑想する獣王の印章は、中世のハタ・ヨーガを彷彿とさせる。ヴェーダからウパニシャッドへの発展のなかで、外来のアーリア文化と土着のドラヴィダ文化の混合が起こり、輪廻転生とそこからの解脱という、インド思想の底流をなすテーマが確立する。さらに、アーリア文化と北東部のチベット系社会との境界領域から、仏教やジャイナ教といった新思想が誕生した。とくに仏教は一時期インド世界を席巻し、さらに東アジア世界全体に広大な影響を及ぼしたが、発祥の地のインドでは次第に衰退し、13世紀のイスラーム化によってほぼ姿を消した。

その後、南アジアではイスラームヒンドゥー教が二大精神文化となり、かつてのイギリス領インドは、インド・ネパール(ヒンドゥー教徒が多数)、パキスタンイスラーム教徒が多数、後に東パキスタンバングラデシュとして分離独立)、スリランカ仏教徒が多数)、ビルマミャンマー仏教徒が多数だがここで言及するインド世界には含まれない)に分離独立した。現在、仏教文化は、インド世界ではスリランカやネパールなどの周辺地域に残っている一方、上座部仏教の流れは東南アジアに、大乗仏教の流れはチベットや東アジアに広く伝播し、それらの土地の土着文化と混じり合いながら、それぞれの地域に独自の世界観を形成している。

蛭川立『彼岸の時間』57-59ページより引用・加筆修正)


(2015/2558-10-05 作成 蛭川立