向精神薬と乱用薬物

向精神薬の作用機序

神経伝達物質 作用 向精神薬
ドーパミン + 興奮剤、精神刺激薬
  - 抗精神病薬
セロトニン + 精神展開薬(サイケデリックス、幻覚剤)
  + 抗うつ薬(とくにSSRI
GABA + エチルアルコール
  + ベンゾジアゼピン抗不安薬睡眠薬
エンドルフィン + オピオイド(狭義の麻薬)

抗うつ薬、精神展開薬、非定型抗精神病薬の作用機序は、異なるセロトニン(5-HT)レセプターのサブタイプに、どう作用するかによって異なる。

精神展開薬には、セロトニンと構造が似たものの他に、ドーパミンノルアドレナリンと構造が似たものがある。(→精神展開薬と神経伝達物質

気分安定薬・ 抗てんかん薬は、特定の神経伝達物質というよりは、細胞内外のタンパク質に直接作用し、細胞の興奮を抑える。

医薬品として用いられる向精神薬の作用機序の詳細は、「医薬品の作用機序」[*1]や、「薬の作用機序・副作用」[*2]が参考になる。

乱用薬物

分類ID 分類
F10 アルコール
F11 アヘン類(モルヒネ、ヘロインなど)
F12 大麻
F13 鎮静薬・催眠薬
F14 コカイン
F15 カフェイン、アンフェタミン類(覚醒剤)、精神刺激薬
F16 幻覚薬(LSD、メスカリン、MDMAなど
F17 タバコ
F18 揮発性溶剤
F19 その他

ICD-10[*3]による障害を生じうる物質のリスト。乱用の危険性については「向精神薬にかんする条約」に国際基準がまとめられている。


日本文化の文脈からみた乱用薬物の一覧は「薬物乱用防止『ダメ。ゼッタイ。』」のサイトに列挙されている。向精神薬の民族分類についての詳細は、「『麻薬』という民俗分類」を、「茶」としての向精神薬の文化については「『茶』の文化的バリエーション」を参照のこと。

薬物を「乱用」するということ

向精神薬が乱用されるということは、逆にいえば単純な分子が人間の思考や感情に影響を及ぼしてしまうということである。脳は複雑なようでじつは単純なのかもしれない。薬に頼ってばかりではいけない、薬に溺れてはいけない、といわれる。心が脳から発生していて、その脳のはたらきが単純な物質によって大いに影響されてしまうというのは、じつに不思議なことである。普通の生活を普通に暮らしていくためには、そういうことは考えないほうがいいのかもしれない。

薬物乱用の主たるものは依存だが、精神展開薬(幻覚薬)や大麻の場合は特殊である。快感が得られるというよりは、むしろ目の前の現実世界の見えかたが変わってしまう、あるいは人生観すら変わってしまうことさえある。それがどのような結果をもたらすのかということを考えるとき、安易な使用は戒められるということだろう。

「人が酒を飲むのは自分を忘れたいからであり、アシッド[*4]を飲むのは自分を知りたいからである」という言葉があるらしいが、ふだんは考えたくない自分というものを知るということは、えてして痛みをともなう。

しかし、もし薬を飲むだけで目の前の世界が美しくなり、幸福がえられるのであれば、社会的な状況の中で幸福をもとめて努力することの意味が薄れてしまう。それとも、目の前の世界が美しく見えるからこそ、もっと幸せに生きようと思えるのだろうか。

このことは、もし明晰夢の世界で自由自在に暮らせるのであれば、起きているほうの世界では寝たきりになったほうがいいのではないか、というパラドックスに似ている。


(西暦2017-11-13 作成 11-14 更新 蛭川立

*1:役に立つ薬の情報—専門薬学ー

*2:薬局実習.com

*3:International Classification of Diseases:国際疾病分類

*4:精神展開薬であるLSDの俗称